「税理士の仕事はAIでなくなる」「税理士の92.5%は代替可能」。こうした言葉を見て、これから税理士を目指すか迷っている人は多いはずです。学び直しで挑戦したいけれど、苦労して取った資格が数年で価値を失うなら踏み出せない。そんな不安が出発点だと思います。
この記事は、すでに事務所を構えている人向けの一般論ではなく、これから目指すか・学び直すか迷っている人に向けて書きます。結論を先に言うと、税理士の仕事は「丸ごとなくなる」より「中身が前へ移る」と捉えるのが正確です。作業は減りますが、判断と提案の比重が上がり、そこに将来性が残ります。
数字や制度の話は、国税庁や日本税理士会連合会など公的な出典をもとに確認しました。そして多くの人が一度は目にする「92.5%が代替」という推計についても、前提と限界に正面から踏み込みます。
編集部注記:本記事のケーススタディは、編集部が複数の事例をもとに構成した想定ペルソナです。2026年5月時点の情報と制度をもとにしています。税務や進路の具体的な判断は、必ず担当の税理士や所轄の税務署、各専門機関にご確認ください。
「税理士の92.5%が代替」という推計はどこまで本当ですか?
これから目指す人が必ず一度はぶつかるのが「税理士の92.5%が代替される」という数字です。まずこの正体を解いておきます。結論として、この数字は職業を丸ごと1つの塊として見た試算であり、税理士の実際の仕事の中身や日本の制度を反映したものではありません。
この92.5%は、オックスフォード大学のカール・フレイ氏とマイケル・オズボーン准教授による2013年の論文「The Future of Employment」を土台に、野村総合研究所が2015年に日本向けに試算したものです。日本の労働人口の約49%が、10~20年後にAIやロボット等で技術的に代替され得るとした推計の一部で、税理士はその中で代替可能性の高い職業に挙げられました(出典:https://www.nri.com/jp/news/newsRelease/lst/2015/cc/1202_1 )。
ただし、この数字には専門家から複数の限界が指摘されています。元国税調査官で税法研究者の指摘を整理すると、主に次の3点です(出典:https://izujun-tax.com/will-tax-accountants-disappear-ai/ )。
- 職業単位の分析であること。1つの職業の中には自動化しやすい作業とそうでない判断業務が混在しますが、職業を1つの塊で見るため代替可能性を過大に見積もりやすい。
- 「技術的に可能」と「実際に代替される」は別であること。制度や社会の受け入れ、導入コストの壁がある。
- 日米の制度差が考慮されていないこと。後述する税務代理などの独占業務は、日本特有の法律の壁です。
決定的なのは、同じ「自動化リスク」というテーマを別の手法で測ると、結論が大きく変わる点です。なぜ税理士が高く出る一方で、OECDの推計では日本全体が約7%にとどまるのか。違いは「職業をどう数えるか」にあります。下の表で並べて比べてみます。
| 推計 | 手法 | 日本の数値 | 違いを生む前提 |
|---|---|---|---|
| オックスフォード大(フレイ・オズボーン)/野村総研(2015) | 職業単位(職業を1つの塊で代替確率を判定) | 労働人口の約49%が代替可能、税理士は代替可能性が高い職業に分類 | 職業内に混在する判断業務を分けず、自動化しやすい作業に引きずられて高く出やすい |
| OECD(Arntz・Gregory・Zierahn 2016) | タスク単位(職業内の作業ごとに自動化のしやすさを判定) | 高リスクの労働者は約7% | 自動化しにくい判断・対人の作業を切り分けて評価するため、低めに出る |
(出典:野村総研は日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に(PDF)、OECDはThe Risk of Automation for Jobs in OECD Countries(PDF))
ポイントは、税理士が高く出るのは「職業を丸ごと1つで数えた」からだということです。税理士の仕事には記帳のような自動化しやすい作業と、相談・交渉のような自動化しにくい判断が混在します。職業単位の手法はこれを分けないため、自動化しやすい作業に引きずられて高めに出ます。一方、作業ごとに見るOECDの手法では日本全体が約7%にとどまります。49%と7%。前提を変えるだけで桁が変わる。つまり「92.5%」は確定した未来ではなく、ある前提のもとでの一つの試算にすぎません。数字に怯えて進路を諦める前に、この前提を知っておくことが大切です。
税理士の仕事はAIでなくなるのですか?
推計の限界を踏まえたうえで、改めて問いに答えます。税理士という資格や役割が丸ごとなくなる可能性は低いです。理由は、税理士には法律で守られた独占業務があるからです。
世界経済フォーラム(WEF)の「Future of Jobs Report 2025」でも、記帳・給与計算といった事務職は今後減少する職種の上位に挙げられています(出典:https://www.weforum.org/stories/2025/01/future-of-jobs-report-2025-the-fastest-growing-and-declining-jobs/ )。ただしこれは定型的な事務作業を指す分類であり、専門判断を伴う税理士業務とは分けて考える必要があります。
つまり減るのは「手を動かす作業」の部分です。税理士の中核にある判断や責任の部分は、AIにそのまま渡せません。だからこそ、これから目指す人が考えるべきは「資格がなくなるか」ではなく「どんな働き方の税理士なら残るか」です。このあと、効率化される領域と残る領域を分けて整理します。
AIで効率化されるのはどの仕事ですか?
最も効率化が進むのは、記帳代行と申告書作成の下準備です。ここは入力と分類の繰り返しで、AIや会計ソフトが得意とする領域です。
具体的には、次のような作業が自動化に向かっています。
- 銀行明細やレシートの読み取りと自動仕訳
- 取引内容に応じた勘定科目の推測
- 申告書や内訳書の下書き作成
- 過去データとの照合や入力ミスの検知
これらはこれまで税理士事務所の作業時間の多くを占めていました。AIが下処理を担うことで、1人の税理士が見られる顧問先の数が増える方向に働きます。
ただし、自動仕訳の結果が正しいかどうかの最終確認は人が行います。AIは「もっともらしい答え」を出しますが、根拠の正しさまでは保証しません。確認と責任は、依然として税理士の側に残ります。これから目指す人は、この「作業はAIに任せる」前提でキャリアを描いて差し支えありません。
税理士にしかできない独占業務とは何ですか?
税理士の独占業務は「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」の3つです。これらは税理士法で定められ、税理士でない人が行うことは原則として禁止されています(出典:https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishiseido/qa/02.htm )。
それぞれの中身を整理します。
- 税務代理:申告や申請、税務調査の対応などを納税者に代わって行う
- 税務書類の作成:申告書など税務に関する書類を作成する
- 税務相談:課税標準の計算など税務事項について相談に応じる
ここで重要なのは、これらが「無償独占業務」とされている点です。たとえ報酬を受け取らなくても、税理士以外がこれらを業として行うことはできません(出典:https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishiseido/qa/02.htm )。
AIは申告書の下書きを出せても、税務署に対して納税者の代理人として主張・対応する立場にはなれません。この法律の壁こそ、先ほどの92.5%推計が考慮していなかった日本特有の事情であり、これから目指す人にとっては資格を取る意味そのものでもあります。
AI時代にむしろ重要になる仕事は何ですか?
重要度が上がるのは、判断・交渉・提案・経営相談という「文脈を読む仕事」です。ここはAIが苦手で、人の経験と責任が効く領域です。
代表的なものを挙げます。
- 節税の選択肢を、その会社の状況に合わせて提案する
- 税務調査で論点を整理し、税務署と交渉・対応する
- 事業承継や相続など、家族関係と税が絡む相談に乗る
- 資金繰りや投資のタイミングを、経営者と一緒に考える
これらは「正解が1つに決まらない」場面です。法律の解釈、会社の事情、経営者の意向を踏まえて、落としどころを設計する仕事と言えます。
AIは過去の事例や条文を素早く示せます。しかし、その情報をもとに「この会社なら、こうしましょう」と腹をくくって助言するのは人の役割です。作業が減るほど、この相談業務の価値が前に出てきます。これから目指す人が磨くべきは、まさにこの力です。
ケーススタディ:40代から税理士を目指す会社員Bさんの場合
編集部注記:以下は編集部が複数の事例をもとに構成した想定ペルソナです。2026年5月時点の状況を前提にしています。
ケーススタディ:地方都市在住で、製造業の経理に15年携わってきた会社員Bさん(44歳)の場合を考えます。Bさんは「これから税理士を目指したいが、AIでなくなると聞いて踏み出せない」と迷っていました。想定する将来像は、年商5,000万~3億円規模の中小企業や個人事業主を顧問先とし、法人税・消費税・相続税を主な税目とする開業です。顧問料は月2万~5万円、決算料は別建てというイメージを持っています。
Bさんが気づいたのは、自分が目指す顧問先が求めているのは「記帳の代行」そのものではない、という点でした。すでに多くの中小企業が会計ソフトで自動仕訳を回しており、欲しいのは「この数字をどう経営に活かすか」「設備投資や事業承継でどの選択肢が得か」という相談相手です。作業を売るのではなく、判断を売る。Bさんはここに15年の経理経験が効くと考えました。
例えば、ある想定顧問先が世代交代を控えていたとします。AIは事業承継税制の要件や候補を素早く示せても、「先代と後継者の関係」「家族の感情」「会社の将来計画」まで汲んで落としどころを設計することはできません。Bさんが目指すのは、まさにこの人にしかできない領域です。
ここから分かるのは、92.5%という数字が脅かしていたのは「記帳作業をする税理士」であって、「判断と提案をする税理士」ではないということです。40代からの学び直しでも、目指す方向を後者に定めれば、AIは脅威ではなく味方になります。
これから税理士を目指すのは将来性がありますか?
結論として、相談と提案ができる税理士を目指すなら、将来性はあると考えられます。作業だけを売る働き方は厳しくなりますが、判断を売る働き方には需要が残ります。
税理士の人数は、令和8年4月末日現在で82,315人です(出典:https://www.nichizeiren.or.jp/cpta/about/enrollment/ )。長く緩やかな増加が続いており、極端に減ってはいません。資格としての土台は維持されています。
試験についても、受験を取り巻く環境は落ち着いています。令和6年度(第74回)税理士試験では、官報合格者数が578人でした(出典:https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishishiken/shikenkekka/74/kekka/index.htm )。難関である点は変わりませんが、科目合格制で長期に挑戦でき、社会人や40代からの学び直しでも積み上げやすい資格です。
これから目指す人にとって大切なのは、簿記や税法の知識に加えて、AIを使いこなす姿勢と、相談に乗る力を育てることです。作業はAIに任せ、判断で価値を出す。この方向に立つほど、資格を取る意味は大きくなります。「なくなる」という言葉に立ちすくむより、「どう変わるか」を見て進路を選ぶのが現実的です。
税理士とAIでよくある質問
Q1. 「税理士の92.5%が代替」は信じてよいですか。 そのまま鵜呑みにする必要はありません。これは職業を1つの塊で見た技術的な試算で、独占業務や日本の制度は考慮されていません。同じテーマでもOECDの推計では日本の自動化リスクは約7%とされ、前提次第で数字は大きく変わります(出典:https://izujun-tax.com/will-tax-accountants-disappear-ai/ )。
Q2. AIだけで確定申告は完結できますか。 個人の単純な申告なら、ソフトやAIの支援でかなりの部分を自分で進められます。ただし、複雑な所得や節税判断が絡む場合、税務代理は税理士の独占業務であり、代理人として税務署に対応できるのは税理士だけです(出典:https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishiseido/qa/02.htm )。
Q3. AIに税務相談をしても大丈夫ですか。 一般的な仕組みを調べる用途には便利です。ただしAIの回答は最新の制度を反映していない場合があり、誤りも起こります。実際の申告判断は、税理士や所轄の税務署に確認するのが安全です。
Q4. 40代から目指しても遅くないですか。 税理士試験は科目合格制で、1科目ずつ長期に積み上げられます。実務経験や経理のキャリアがある人ほど、相談業務で強みを出しやすく、学び直しと相性のよい資格です。
Q5. AIを使える税理士と使えない税理士で差は出ますか。 作業の効率や、提案できる選択肢の幅で差が出やすくなります。AIで下準備を素早く終え、その分を相談に使える税理士のほうが、顧問先に多くの時間を割けます。これから目指す人ほど、最初からAIを前提に学ぶ利点があります。
まとめ
- 「税理士の92.5%が代替」は職業単位の技術的試算で、独占業務や日本の制度差を考慮しておらず、OECDでは日本のリスクを約7%と桁違いに低く見積もっています(出典:https://izujun-tax.com/will-tax-accountants-disappear-ai/ )。
- 税務代理・税務書類作成・税務相談は税理士の独占業務で、代理人としての責任をAIに渡すことはできません(出典:https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishiseido/qa/02.htm )。
- むしろ重要になるのは、判断・交渉・節税提案・経営相談という文脈を読む仕事です。
- これから目指すなら、作業ではなく判断で価値を出す税理士を目指すこと。40代からの学び直しでも、その方向なら将来性はあります。