「薬剤師は2045年に飽和して余るのか」「AIや調剤機に対物業務を奪われたとき、自分はどこに立てるのか」。中堅にさしかかった薬剤師ほど、こうした問いを抱えはじめます。新卒の頃は売り手市場だったのに、ここ数年で求人の雰囲気が変わってきた、と肌で感じている人も多いはずです。
先に結論をお伝えします。薬剤師という資格そのものがなくなる可能性は低い一方で、人数としては将来的に余る見通しが厚生労働省の推計で示されています。しかも余り方は全国一律ではなく、地方ほど供給過剰の圧力を受けやすい構造です。それでも、対人業務へ軸足を移した薬剤師の需要は続きます。
この記事は、これから薬剤師を目指す人だけでなく、すでに現場に立つ中堅薬剤師が学び直しでキャリアを再設計するための判断材料を渡すことを目的にしています。まず「いつ・どこで・どれくらい余るのか」を厚生労働省の需給推計と地域偏在のデータで正面から見たうえで、「だからどの方向へ学び直せば余らない側に立てるのか」という具体的な道筋へ進みます。
編集部注記:本記事は厚生労働省など公的機関が公開した資料をもとに、編集部が整理したものです。登場するケーススタディは特定の個人ではなく、編集部が想定した典型的な人物像です。制度や数値は今後変わる可能性があるため、最新情報は各出典の公式サイトでご確認ください。
薬剤師は2045年にどれくらい飽和するのですか
キャリアを考えるうえで一番気になる点だと思います。結論から言うと、薬剤師の総数は2045年(令和27年)に向けて供給過剰、いわゆる飽和の方向が見込まれています。目をそらさず数字で見ておきましょう。
厚生労働省の「薬剤師需給の将来動向に関する検討会」がまとめた需給推計によると、薬剤師の供給数は2020年の約32.5万人から2045年には約45.8万人へと約1.4倍に増える一方、需要はほぼ横ばいで推移すると見込まれています。業務内容が現在と同程度のままなら、2045年には約12.6万人の供給過剰になるという結果が示されました。薬剤師業務の幅を広げて需要を増やす想定でも、なお約2.4万人の過剰が残るとされています(出典:薬剤師の需給推計(案)/厚生労働省 薬剤師需給の将来動向に関する検討会 )。
数字を整理すると次のようになります。
| 区分 | 2020年 | 2045年(推計) |
|---|---|---|
| 供給(薬剤師数) | 約32.5万人 | 約45.8万人 |
| 需要(現状の業務範囲のまま) | 約32万人 | 約33.2万人 |
| 差し引き | ほぼ均衡 | 約12.6万人の供給過剰 |
| 需要(業務拡大を想定した場合) | ─ | 約40.8万人(過剰は約2.4万人に縮小) |
(出典:薬剤師の需給推計(案)/厚生労働省 )
これは「薬剤師が要らなくなる」という意味ではありません。今後10年程度は需要と供給が同程度で推移すると見られていますが、その先は人数が余る方向に進む、という見通しです。資格を持っているだけ、作業ができるだけの薬剤師ほど、競争の波を受けやすくなります。中堅のうちにキャリアを再設計する価値があるのは、まさにこの「10年の猶予」があるうちだからです。
なぜ地方ほど薬剤師が余りやすいのですか
「飽和」と聞くと全国一律のように感じますが、実際の余り方は地域でかなり違います。ここを押さえておかないと、自分の働く地域の手応えと全国の数字がかみ合わず、判断を誤りやすくなります。
厚生労働省は薬剤師の地域差を「薬剤師偏在指標」として算定・公表しています。これは人口や処方の状況を加味して地域ごとの薬剤師の充足度を表す指標で、値が低いほど相対的に薬剤師が足りていないことを意味します(出典:薬剤師偏在指標の算定について/厚生労働省 薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 )。公表された都道府県別の指標では、東京・神奈川・兵庫など都市部が上位に並び、地方の県が下位に並ぶ構造が示されています(出典:薬剤師偏在指標(都道府県別実績値)/厚生労働省 )。
ここで注意したいのは、指標上は「足りない」とされる地方が、必ずしも就職しやすいとは限らない点です。薬学部は都市部に多く、新卒の薬剤師がそのまま都市部で就職する傾向があるため、薬剤師は都市部に集まりやすくなります。一方で、調剤中心の業務が機械化・効率化されていくと、人口が伸びない地域では一人あたりがカバーできる範囲が広がり、雇用としての椅子はむしろ絞られやすくなります。「薬剤師 余る 地方」という不安は、こうした需給と偏在のねじれから生まれています。
つまり問いは、「薬剤師という資格を持っているか」ではなく、「自分の地域で、機械化が進んでも残る役割を担えているか」へと変わっています。ここを正しく押さえれば、飽和の中でも余らない側に立つ手がかりが見えてきます。
飽和の中でどんな薬剤師が余りにくいのですか
余る側と残る側を分けるのは、対人業務で価値を出せるかどうかです。具体的には、在宅医療とかかりつけ機能で患者に深く関わる薬剤師の需要が続く見込みで、需給推計でも業務の幅を広げれば過剰が約2.4万人まで縮む方向が示されています。中堅薬剤師にとっては、ここが学び直しの主戦場になります。
在宅医療は、高齢化を背景に国が拡大を進めている分野です。自宅や施設で療養する患者のもとへ薬剤師が訪問し、複数の薬の重複や飲み合わせを整理し、飲み忘れを支える。こうした仕事は機械では完結せず、地域で深く関われる人が求められます。地方で薬剤師が余ると言われる地域ほど、在宅対応に手が回る薬剤師はむしろ不足しがちで、ここに再設計の余地があります。
かかりつけ薬剤師は、特定の患者の薬を継続的に把握し、複数の医療機関の処方をまとめて管理する役割です。厚生労働省が2015年に公表した「患者のための薬局ビジョン」でも、薬を揃える対物業務中心の薬局から、患者を継続的に見る「かかりつけ」への転換が方向づけられています(出典:患者のための薬局ビジョン/厚生労働省 )。
さらに2019年の薬機法・薬剤師法の改正で、薬を渡したあとの服薬期間中のフォローアップが薬剤師・薬局の義務として明確化されました(2020年9月施行)。必要があると認める場合に服薬状況を把握し指導することが求められます(出典:薬機法等の一部改正の概要/厚生労働省 )。患者を渡して終わりではなく、その後も関わり続ける薬剤師像が制度として定着しつつあるということです。
中堅から学び直すなら、調剤台で薬を揃える日常の比重を下げ、在宅で患者宅を回り、かかりつけとして相談に乗る自分へと役割を寄せていくのが現実的です。飽和が進む時代でも、この方向に余りにくい立ち位置があります。
ケーススタディ:地方勤務の中堅薬剤師Aさんが学び直しでキャリアを再設計した場合
以下は編集部が想定した典型的な人物像です。特定の個人や実在の事例ではありません。
地方の調剤薬局に勤める中堅薬剤師のAさん(勤続十数年)は、薬を揃え数える作業に1日の多くを費やしてきました。「2045年には薬剤師が飽和すると聞くし、この地域は人口も減っている」「対物作業だけでは、自分が余る側に回るのではないか」と、将来に不安を感じていました。
勤務先が調剤機と監査システムを導入すると、Aさんの作業時間は大きく減りました。そこでAさんは、空いた時間を学び直しに振り向けることにします。在宅医療の研修を受け、かかりつけ薬剤師として求められる服薬フォローの進め方を学び直し、少しずつ実務に取り入れていきました。
飲み忘れの多い高齢の患者に電話で様子を聞き、副作用の兆候を見つけて医師に連絡する。在宅の患者宅を訪問し、複数の薬の重複を整理する。やがてこうした対人業務がAさんの中心になり、かかりつけとして指名される患者も増えていきました。供給は過剰でも在宅に手が回る薬剤師は地域で足りておらず、Aさんの役割はむしろ広がっていきます。
AさんはAIを敵ではなく相棒として使っています。記録の整理や注意点の抽出はAIに任せ、自分は患者と向き合う時間を増やす。機械化は仕事を奪うものではなく、本来注ぐべき業務へ時間を回す手段になったのです。同じように飽和を不安に思う同世代に、Aさんはこう話します。「中堅の今のうちに、対物ではなく対人で勝負できる側へ学び直しておくと、余る側に回りにくい」。
調剤のどこがAI・機械に置き換わるのですか
生き残る側に立つには、何が機械化されるのかも正しく知っておく必要があります。置き換わるのは、薬を取り揃える、数を数えるといった作業的な部分です。
厚生労働省は2019年に「調剤業務のあり方について」(いわゆる0402通知)を発出しました。薬剤師が最終責任を負うことを前提に、処方箋どおりに医薬品を取り揃える行為や、一包化した薬剤の数量確認などは、一定の条件下で薬剤師以外も実施できると整理されています(出典:調剤業務のあり方について/厚生労働省 )。
ここに調剤機や監査システム、ピッキング支援などのAI・機械が加わります。錠剤を揃え、画像で照合し、ミスを減らす作業は機械が得意な領域です。これから目指す人が「調剤作業の速さ」だけを強みにしても、その価値は年々下がっていきます。
ただし、軟膏・水剤・散剤を直接計量し混合する行為は薬剤師法に基づき薬剤師が行います。機械化が進んでも、最終的な監査と責任は薬剤師に残る構造です。
服薬指導までAIに置き換わるのですか
完全には置き換わりません。AIは情報整理を助けますが、患者の状況をふまえた判断と責任は薬剤師が担います。ここが、これから学ぶ人にとって最も価値を出しやすい領域です。
AIは、飲み合わせのチェックや過去の記録の整理、注意点の候補出しなどで力を発揮します。一方で、患者の表情や生活背景を読み取り、不安に寄り添い、医師へ疑義照会するといった判断は人の役割です。
AIが整えた情報を土台に、薬剤師が最終判断を下す。この組み合わせが、これからの服薬指導の基本形になっていきます。だからこそ、進路を決める段階から「人と向き合う力」を意識して学ぶ価値があります。
中堅薬剤師は何から学び直せばよいですか
調剤技術だけでなく、対人スキルとAIを使いこなす力をあわせて磨き直すことが鍵になります。飽和が進む時代に余る側へ回らないためのキャリア再設計の軸は、この3つに整理できます。
第一に、患者の話を聞き取り、生活背景をふまえて助言する対人スキルです。医師や他職種と連携するコミュニケーションも重要になります。対人業務は、AIに最も置き換わりにくい領域です。在宅やかかりつけの実務研修は、中堅から学び直す入口として現実的です。
第二に、AIや調剤機を「使う側」に回る姿勢です。AIが出した情報を鵜呑みにせず、正しく検証して判断する力が、これからの専門性になります。AIに作業を任せ、人は対人業務に集中する。これが標準になっていきます。日々の業務でAIツールに触れ、検証する習慣そのものが学び直しになります。
第三に、在宅医療やかかりつけ機能など、地域で深く関わる分野へ早くから軸足を移すことです。供給が増える中でも、こうした分野の需要は続く見込みで、地方ほど在宅に手が回る薬剤師が不足しがちです。学び直しの軸を対人業務とAI活用に置けば、「飽和して余る側に回ってしまった」という結末を避けやすくなります。なお、この記事は職業の存続や将来の需給を保証するものではありません。制度や推計は今後変わり得るため、最新情報は各出典でご確認ください。
薬剤師とAIでよくある質問
Q1. 薬剤師はAIで本当になくなりますか
資格そのものがなくなる可能性は低いです。調剤の対物業務は機械化が進みますが、最終的な監査や対人業務、薬剤師法に基づく責任は薬剤師に残ります。AIは判断を補助する道具という位置づけです(出典:調剤業務のあり方について/厚生労働省 )。
Q2. 薬剤師は2045年に飽和して余るのですか
厚生労働省の需給推計では、長期的に供給が需要を上回る見込みです。2045年には現状の業務範囲のままなら約12.6万人、業務を広げる想定でも約2.4万人の供給過剰とされています。ただし対人業務の充実度などで必要性は変わり得ると注記されており、すべての薬剤師が余るという意味ではありません(出典:薬剤師の需給推計(案)/厚生労働省 )。
Q3. 地方ほど薬剤師が余りやすいのですか
余り方には地域差があります。厚生労働省の薬剤師偏在指標では、東京・神奈川・兵庫など都市部が上位、地方が下位に並ぶ構造が示されています。指標上は地方が不足とされる一方、薬学部の多い都市部に新卒が集まりやすく、人口が伸びない地域では機械化で雇用の椅子が絞られやすいねじれもあります。自分の地域の実情に合わせた判断が必要です(出典:薬剤師偏在指標(都道府県別実績値)/厚生労働省 )。
Q4. 中堅薬剤師は今から何を学び直せばよいですか
在宅医療やかかりつけ機能といった対人業務と、AIや調剤機を使いこなす力が中心になります。供給は増えても、こうした分野の需要は続く見込みです。「資格があれば安泰」と考えると期待外れになりやすい一方、対人スキルとAI活用へ学び直す前提でキャリアを再設計すれば、飽和の中でも価値を出しやすくなります。在宅研修や日々のAIツール活用が入口になります。
Q5. 調剤薬局の薬剤師は仕事が減りますか
作業的な対物業務は減る方向です。一方で、服薬期間中のフォローアップが義務化され、対人業務はむしろ増えています。空いた時間を患者対応へ振り向ける働き方へ変わっていきます(出典:薬機法等の一部改正の概要/厚生労働省 )。
Q6. AIを使えない薬剤師は余りやすくなりますか
断定はできませんが、AIを使える薬剤師ほど効率と質を高めやすくなります。AIに作業を任せ、対人業務に時間を割く働き方が標準になっていきます。中堅から学び直すなら、使う側に回る姿勢を早めに身につけておくことが、飽和の中で余りにくい強みになります。
まとめ
- 厚生労働省の需給推計では、2045年に薬剤師は約12.6万人(業務拡大想定でも約2.4万人)の供給過剰が見込まれ、「資格さえあれば安泰」ではなくなります(出典:薬剤師の需給推計(案)/厚生労働省 )。
- 飽和は全国一律ではなく、薬剤師偏在指標が示すとおり地域差があり、地方ほど需給のねじれを受けやすい構造です(出典:薬剤師偏在指標(都道府県別実績値)/厚生労働省 )。
- 資格はなくならず、対物業務から対人業務へ役割が移っていきます(出典:患者のための薬局ビジョン/厚生労働省 )。
- 中堅のうちに在宅・かかりつけの対人業務とAI活用へ学び直しておくことが、余る側に回らないキャリア再設計の鍵です。職業の存続や将来性を保証するものではなく、最新情報は各出典でご確認ください。