中小企業が社員のリスキリング(特にAI・DX)に投資する場合、適切な助成金を使えば実費は大幅に下げられます。本記事では2026年6月時点で確認できた主要制度を、中小企業視点で整理します。

本記事のご利用にあたって(重要) 本記事は2026年6月時点で公開情報を確認した内容です。本文中の補助率・上限額・申請期日は記載時点のものであり、年度途中の改正・公募回ごとの要件変更があり得ます。本記事のケーススタディは編集部が制度資料から構成した試算例で、実際の受給額は申請内容・計画書承認結果により異なります。利用前に必ず各制度の公式サイトで最新の公募要領をご確認いただき、必要に応じて社労士・税理士等の専門家にご相談ください。

中小企業が使える主な制度は何か?

結論として、AI・DXのリスキリング目的で中小企業がまず候補にすべき主要制度は次の3系統です(2026年6月時点)。

制度 主管 主な対象 補助率の目安 出典
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース) 厚生労働省 新規事業・DXに伴う社員研修 中小企業:経費助成75%/賃金助成1人1時間1,000円 厚労省パンフレット
キャリアアップ助成金(正社員化コース) 厚生労働省 非正規→正規転換 中小企業:1人最大40万円(重点支援対象者は加算あり) 厚労省PDF
東京都DXリスキリング助成金 東京都(東京しごと財団) 都内中小企業のDX研修 助成率2/3(上限100万円/1社)※年度により変動 東京都

AI・DXに直結するリスキリングで実務上もっとも使われているのは、人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」です。次章で中身を見ていきます。

人材開発支援助成金(最重要)の中身は?

結論として、社員の業務に関連する研修費用と、研修中の賃金の一部 を国が助成する制度です。AI・DXリスキリングでは「事業展開等リスキリング支援コース」が中心になります。

中小企業向けの主要コース(2026年6月時点)

厚生労働省の公式ページ(人材開発支援助成金)で確認できる、中小企業が活用しやすい主要4コースは次のとおりです。

  • 人材育成支援コース:職務に関連する一般的な訓練(OFF-JT中心、OJT併用も可)
  • 教育訓練休暇等付与コース:有給教育訓練制度を導入し、社員が訓練を受けた場合
  • 人への投資促進コース:デジタル人材育成、社員の自発的な訓練など
  • 事業展開等リスキリング支援コース:新規事業・DX等の事業展開に伴う新分野の知識・技能習得

事業展開等リスキリング支援コースの補助内容(2026年6月時点)

厚生労働省の詳細版パンフレットで確認できる主な数値は以下のとおりです(令和7年4月1日以降の改正を反映)。

  • 経費助成率:中小企業 75%(中小企業以外 60%)
  • 賃金助成:1人1時間あたり 中小企業 1,000円(中小企業以外 500円)※令和7年4月1日以降に労働局へ計画届を提出する分から、従来の960円(中小企業以外480円)より引き上げ。なお、eラーニング・通信制のみの訓練は賃金助成の対象外
  • 経費助成の上限額(1人あたり):訓練時間10〜100時間未満で30万円、100〜200時間未満で40万円、200時間以上で50万円(いずれも中小企業)
  • 1事業所・1年度あたりの支給限度額:1億円

なお、2026年(令和8年)3月2日以降、従来の「事業展開に伴う訓練」「DX・GXに関する訓練」に加えて「人事・人材育成計画に基づく訓練」も助成対象に追加され、対象範囲が拡充されました(出典:厚生労働省事業展開等リスキリング支援コースのご案内(詳細版))。なお、本コースは令和7年度末(2027年3月31日)までの時限措置とされています。最新の対象範囲・実施期間は必ず公募要領で確認してください。

ケーススタディ:中小IT企業A社(従業員30名)が活用した場合の試算

以下は、編集部が上記の制度資料の補助率・上限を仮に適用した一般的な計算例です。実際の受給額は、計画書承認の内容、訓練時間、対象労働者の賃金などにより異なります。

  • 受講するAI実務研修:1人あたり受講料 30万円/訓練時間 50時間
  • 経費助成額:30万円 × 75% = 22.5万円
  • 賃金助成額:50時間 × 1,000円 = 5万円
  • 合計受給見込:約27.5万円
  • 実費負担見込:約2.5万円(1人あたり)

※あくまで制度資料上の補助率を単純適用した試算です。経費助成には1人あたりの上限額(訓練時間帯ごと)があり、賃金助成にも対象となる上限時間(1人あたり1訓練につき1,200時間、専門実践教育訓練は1,600時間)があります。実際の申請では計画書の承認可否、訓練実施記録、賃金台帳等の整合性が問われます。

キャリアアップ助成金との違いは?

結論として、人材開発支援助成金は「スキル向上」、キャリアアップ助成金は「雇用形態の改善」 に焦点があります。

リスキリングそのものに使うなら 人材開発支援助成金 が主役です。一方、非正規社員を正社員化する場合は キャリアアップ助成金(正社員化コース) が使えます。

正社員化コースの主な助成額(中小企業、2026年6月時点)は、厚生労働省の令和7年度キャリアアップ助成金のご案内で公開されています。

  • 有期→正規転換:1人あたり最大40万円(第1期分)
  • 重点支援対象者(雇用期間3年以上の有期雇用労働者など)の場合、第2期分の加算により1人あたり最大80万円となる場合があります
  • 2026年度から「情報公表加算」が新設され、要件を満たすと1事業所あたり20万円(中小企業)が加算(出典:スポット社労士くん解説、厚労省パンフレット)

両制度は対象社員が異なれば併用可能なケースもありますが、要件確認が必要です。

自治体の独自支援(東京都DXリスキリング助成金など)は?

結論として、都道府県・市区町村ごとに独自の支援制度があります。代表例として東京都の制度を紹介します。

東京都DXリスキリング助成金(中小企業人材スキルアップ支援事業)

東京都のTOKYOはたらくネット 公式ページに掲載されている、東京しごと財団運営の助成金です。

  • 正式名称:DXリスキリング助成金(中小企業人材スキルアップ支援事業)
  • 対象:都内中小企業等
  • 内容:従業員のDXに関する研修費用の一部を助成
  • 助成上限:1社あたり概ね100万円(年度により変動)
  • 申請時期:研修開始の概ね1ヶ月前まで(公募回ごとに締切あり)

大阪府・福岡県など他自治体にも類似制度がある可能性がありますが、2026年6月時点で編集部が公式ソースで個別に確認できていないため、本記事では具体名の列挙を控えます。お住まいの自治体の産業労働部門・商工会議所のサイトで最新の公募情報をご確認ください。

国の関連補助金(リスキリング以外でDX投資に使えるもの)

リスキリング以外でも、DX投資に活用できる主な国の補助金として以下があります(2026年6月時点)。

  • デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金):ITツール導入費用が対象。通常枠・インボイス枠など類型あり。公式:IT導入補助金ポータル
  • ものづくり補助金:第23次公募が2026年2〜5月に実施。公式:ものづくり補助事業ポータル
  • 中小企業新事業進出補助金:事業再構築補助金(第13回で終了)の後継。新分野展開を支援

これらは「人材育成費」そのものを直接補助する制度ではないため、リスキリング目的なら人材開発支援助成金を主軸にし、ツール導入と組み合わせる設計が現実的です。

申請の3ステップと注意点

結論として、「計画届の事前提出 → 研修実施 → 支給申請」 の3ステップです。

ステップ1:計画届の事前提出(最重要)

人材開発支援助成金では、訓練開始日の原則1ヶ月前までに職業訓練実施計画届を都道府県労働局へ提出する必要があります(出典:厚労省パンフレット)。これを怠ると、訓練自体は実施できても助成金は支給されません。

ステップ2:研修実施

計画通りに研修を実施します。出席簿、カリキュラム、賃金台帳、振込記録などを必ず保管してください。

ステップ3:支給申請

研修終了後、定められた期日内に支給申請書類一式を労働局へ提出します。

よくある失敗

  • 計画届を出す前に研修を開始してしまい支給対象外になる
  • 訓練時間や賃金単価の集計ミスで減額される
  • 「業務OJTの一環」と判定され、対象研修と認められない

よくある質問

Q1. 助成金申請は社労士に頼むべきですか?

書類が複雑な場合や初めて申請する場合は、社労士に依頼するのが安全です。費用対効果を計算したうえで判断してください。

Q2. AI・DX系の研修なら助成率は高いですか?

「事業展開等リスキリング支援コース」は中小企業の経費助成率75%と、人材開発支援助成金の中でも高水準です(2026年6月時点、厚労省PDF)。ただし、新規事業や事業展開と紐づいた研修であることが要件です。

Q3. オンライン研修も対象ですか?

eラーニングや通信制を含むオンライン研修も対象になり得ますが、コースごとに要件が異なります。最新の公募要領で対象訓練の定義をご確認ください。

Q4. 1社あたり年いくらまで使えますか?

事業展開等リスキリング支援コースの場合、1事業所・1年度あたりの支給限度額は1億円とされています(出典:厚労省パンフレット)。他コースは別途上限が設定されているため、最新の公示で確認してください。

Q5. 個人事業主・フリーランスも使えますか?

人材開発支援助成金は事業主が雇用する労働者向けで、個人事業主自身は対象外です。個人で学ぶ場合は教育訓練給付金が候補になります(リスキリング補助金の個人申請)。

まとめ

  • 中小企業のAI・DXリスキリングで最初に検討すべきは「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」(中小企業の経費助成率75%/2026年6月時点)
  • 雇用形態の改善には「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」、東京都内なら「DXリスキリング助成金」も併せて検討
  • 申請の8割は「計画届の事前提出(訓練開始の原則1ヶ月前まで)」の遵守で決まります。順番を守ること

繰り返しになりますが、補助金・助成金は制度変更・公募回ごとの要件変更が頻繁です。実際の申請前には必ず最新の公募要領を公式サイトで確認し、必要に応じて社労士等の専門家へご相談ください。